イアンふたたび ぱすた様作品

 


イアンふたたび

Ian is in trouble




 爽やかに晴れた秋の朝だった。
 おれは、香り立つコーヒーを口に運んだ。うまい。こればかりはレオポルドに脱帽だ。
 レオポルドがアンジェロ・レオーネとして戻ってきて以来数ヶ月が経つというのに、おれたちは未だに長期休暇の調整が取れないでいた。
 それでも、レオポルドは暇を見つけては、心配になるほどまめにヴィラにやってくる。
 今回も、昨日の朝、「タスマニア旅行の話がしたい」とメールしたら、どう都合をつけたものか、夜にはおれの家の扉を叩いていた。



 昨夜は秋だというのに、熱い夜だった。
 レオポルドはさんざんおれを焦らした。おれの身体を後ろから抱えて、乳首をつまんだり、内股を撫で上げたり。
 お互いに犬だった頃から知り抜いている身体中の性感帯を刺激しながらも、肝心の性器には掠りもしない。
 おれはたまらなくなった。

「レオポルド、頼むよ」

「なら、こっちの口でもサービスしろよ」

「あふっ」

 いいざま、レオポルドはおれの口に指を2本突っ込んできた。おれはむしゃぶりついた。しかしレオポルドは夢中で舐めあげるおれの舌の動きに頓着せずに、すぐに指を引き抜いてしまった。

「あ。――――あ、あ、あああああ」

 一瞬の喪失感は、すぐに新たな快感に取って代わった。レオポルドは唾液に濡れそぼった指でおれのアヌスを広げてきたのだ。ふにふにと入り口を指で押される半端な快楽に、おれは身をくねらせた。

 レオポルドはくすりと笑って立ち上がると、揺り椅子に腰掛け、おれを膝の上に抱き上げて言い放った。

「自分で入れてみろ」

 レオポルドの大きな手のひらがおれの腰をがっしりと捉えた。引き寄せられるままに、おれは両足を広げて肘掛けに乗せ、そびえ立つ彼の屹立に手を添えて、おれのアヌスへと導いた。

「イアン、もうくわえられるだろ?さっさとおれを食えよ」

 おれ自身の唾液に濡れて、アヌスはほぐれてきていた。
 おれはレオポルドの肩にしがみつき、少しずつ身体を落としていった。
 すべてがおれの中に収まると、レオポルドはおれの膝裏を抱え上げた。
 おれはバランスを崩されて、さらに奥深くレオポルドをくわえ込むことになった。
 反動で揺り椅子が揺れはじめ、おれの内部でレオポルドのペニスがうねりだした。

「あっ。――くは、あ、あ、あ」

 揺り椅子が前後に揺れるたびに、おれは快感の波に翻弄された。
 弓なりにのけぞってしまう身体を、レオポルドの肩を掴んで何とか支えた。
 ふいに乳首を弾かれて、電流が走ったかと思った。

「ひっ、く――ああ、あ、あああ、あ」

 椅子が一段と激しく揺れたとき、おれの意識は地上から解き放たれ、天へと駈けのぼっていった。
 おれたちは椅子の上でぴったりと身を寄せ合った。そして、椅子の揺れが止まった後もしばらくそのままひとつになっていた。



「――それで、祝杯をあげに、奴の所に押しかけることにしたんだ」

 レオポルドは朝から上機嫌で、友達の波瀾万丈な身の上話をしていた。
 おれは今日の仕事に思いを馳せながら、ぼんやりと聞いていた。
 レオポルドの友人は、シカゴ・マフィアの一員だったが、農場で働くようになった。日々の仕事はきついのに衣類にも事欠く有様で、ついに彼は独立を決心して行動を起こしたというのだ。

「奴がどこに行ったと思う?コロンビアだぜ。奴にしちゃ、上出来だ。大成功だよ」

「へえ。コーヒー農園を経営しているのか?」

 レオポルドはマグカップのコーヒーをあおった。

「また帰り道に寄るよ。土産は何がいい?」

「そうだな。うまいコーヒーを手に入れてきてくれ――おまえが摘んだ豆がいいな」
 
 レオポルドはウインクした。

「奴に相談して、コロンビアで一番のコーヒーを仕入れてくるよ」



 レオポルドは朝早く出かけていった。
 午前中はオフィスで書類の山を片づけた。
 午後はドムス・ロサエに行くことになっていた。約一年ぶりにおれの手を借りたい調教があるという。いったいどんな客なのだろう。客の調教には細やかな配慮が要求される。それなのに、奇妙なことにまだおれのもとに資料が届けられていなかった。おれは漠然とした不安を感じていた。


 三時に、おれはドムス・ロサエに着いた。
 柱廊玄関を入って噴水の前に来たとき、家令のフミウスに呼び止められた。

「いらっしゃい、イアン。ようこそっ!」

 満面の笑顔で愛想良くおれを控え室に迎え入れた。礼儀正しく、常に笑顔を絶やさない好人物だが、ヴィラ・カプリでは古株で知らないことはないらしい。外科部長や按察官補佐を初めとした人脈もあり、ヴィラの屋台骨を支える立て役者と噂されていた。

 フミウスはおれをテーブルに着かせると、かいがいしくお茶をもてなしてくれた。
 かぐわしい紅茶の香りが立ちこめる。
 ティーセットはすべてウエッジウッドのジャスパーウエアで揃えられていた。イギリスでもこんな高価なティーセットで紅茶を飲んだことはなかった。慎重にミルクピッチャーを手に取り、アッサムティーに注ぎ入れた。
 
「ところで、今日の客のプロフィールをまだもらっていないのですが」

「まずは秋の味覚をご堪能下さい。もうしばらくしたら、きいてきますよ」

 勧められるままに、ケーキを口に運ぶ。

「ブリタニアに行っていたスタッフが、フォートナム・メイソンで買ってきてくれたんですよ。
このモカマロンケーキは、季節限定のこの秋の新作だそうです」

「最高にうまいですね。ありがとうございます」

 おれは枯れ葉が舞い散る窓の外の景色を眺めながら、上等な紅茶とケーキを味わった。

 ふいに窓ガラスがにじみ、庭の木が揺らいだ。おれは慌ててティーカップをテーブルに置いた。視界がぶれる。
 まさか――

「きいてきたようですね、外科部長の薬が」

 最後に見たのは、優雅に足を組んで琥珀色の紅茶を飲みながら、床に倒れたおれを見下ろしている、家令フミウス・スズッカの婉然とした微笑みだった。





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